月夜見
   
“これもお勉強のうち?”
         〜大川の向こう

 
いきなりぐんぐんと気温が上がり続けたり、
そうかと思や 荒れた雨がざんと降った後、
とんでもなく寒いのが急に戻って来たり。
今時はそうなんだよと言い切れぬような気まぐれっぷり、
そういう意味からは、お天気というお言葉通りの、
落ち着きのない日々が続いたせいだろうか。

 「む〜ん……。」

こちらのお宅の寝ぼすけ坊やにも
何かしら働きかけるものがあったのか。
家中の雨戸を開けて回り、
洗濯機を回しつつ、
朝ご飯の支度に取り掛かっておいでのマキノさんが、
とたとたと板張りを鳴らしつつ通り過ぎかけた縁側で、
そのままお台所へ引っ込みかかったの、
はっとし わざわざ戻って来て見直ししたほどに。
何とも意外な風景が、お庭の端っこで展開されており。

 「…ルフィ? もう起きてたの?」
 「うん。」

小さなお膝に手を置いてのしゃがみ込み、
長袖だが涼しげなサッカー生地のパジャマ姿のまんま、
庭先に降り立ってた小さな坊やがおいで。
起きたら起きたで、お腹すいたぞとまずは台所へやって来るはずが、
なのですぐに気づいたはずが。
小さな体をますますと丸め、
お庭の端っこで生け垣へ向かい合っていたなんて。
しっかり者のマキノさんでなければ、
ともすりゃ見つけられなかったかも知れぬというもので。

 「どうしたの?」

靴脱ぎ石のわきに置かれた庭ばきをつっかけ、
そちらへ向かって気がついたのが。
ルフィ坊やが向かい合ってたのは生け垣ではなく、
その手前に置かれてあったプランターへ。
大人ではしゃがみ込んでも見下ろす角度になるところ、
小さな坊やだと、目線が丁度 地面間近となるらしく。
それへ念入りに端から端までを観察中である模様。

 “ああ、そっか。そういえば…。”

小学校の低学年たちは、
理科の授業の課題として 何かお花の種を植え、
それが成長するのを観察するのがセオリーで。
ルフィ坊やも学校で鉢に朝顔を育てているのだが、

 『あんなあんな、くいな姉ちゃんが、種くれたvv』

そんな春先に、
仲良しこよしのゾロ兄ちゃんのお家から帰って来た坊や。
ゾロの姉上から、何かの種を分けてもらったそうで。
学校での朝顔の種蒔きにわくわくしていたタイミングだったこともあり、
じゃあそちらはお家で育てましょうねと、空いてたプランターに蒔いたのだが、

 「ガッコの朝顔は双葉も本葉も出たのにサ。
  こっちは全然なんだもんな。」

むむうとふかふかの頬を膨らませるルフィなのへ、

 「そ、そうなの?」

お隣へ同じように屈んだマキノさんが、
あらまあと口許へ手を当てたものの、
内心ではギクリと冷や汗をかいておいで。
だってこのプランター、結構な曰くが大有りだったりするらしく。

 「まさかまた、
  シャンクスが蹴つまずいた腹いせに“このやろーっ”て引っ繰り返したり、」

  ドキドキ☆

 「エースが買ったばっかのチェーンとか埋めて錆び付かせてたり、」

  ギクギク★

 「トナリのマルが骨とかゴキブリとか埋めてったりしてないだろーな。」
 「それはないわ。うん、絶対にない。」

何でか最後のだけ、強力にないと言い切られ、
今度は坊やの側が“おおう”とのけ反ったほどだったけれど。

 「ほら、よ〜く見てご覧なさい。」

もしかして芽が出ているかもと、
ちょこっと大きめの小石が乗っかってたのをどけてやりつつ、
表を全部見回せと指示してみたマキノさん。

 “こういうのが好きだったなんて意外だったなぁ。”

確かに動物は何でも好きな子だったが、
植物までとは意外や意外。
でもでもそういえば、

 『はい、この中に仲間外れがいますよ。どれかなぁ?』

一年生への授業はというと、
取っ付きやすくするためか、お遊戯やクイズみたいなものが多くて。
ヒマワリやチューリップ、朝顔の絵とともに、カブトムシの絵が混ざってたり、
キリンやライオン、ゾウさんの絵と一緒におむすびの絵が混ざっている図から、
1つだけ種類が違うねというの、探させる問題があった折、

 『仲良ししないといけないんだぞ、せんせー』

むんと胸を張ってそんなお答えを返した話は、
今でも伝説となっているほどであり。

 「…あ、ほらルフィ。ここに緑の何か出てるよ?」
 「うや?」

雑草にしては いやにしっかりとした緑、
それも双葉っぽいのが3つほど、
どうしてだろか、端っこにばかり顔を出しており。

 「おかしいなぁ、俺、真ん中に埋めたのに。」

だから、なかなか芽を出さぬと唸ってもいたんだのにね。
何でこんな端にいるんだろと、やっぱり小首を傾げてしまうのへ、

 「さあ、雨が降ったりもしたから、
  種が流されかかったのかもしれないぞ?」

それでも頑張ったんだから、これからも見守ってあげようね?と、
にっこりと女神様のように微笑ったマキノさんだったのへ。
縁側の端っこに身を隠し、
ごめんなさいと拝むようにして
片手を顔の前にかざしてた男衆が二人ほどいたようだったが、

  そうか、二人ともがやらかしましたね。(笑)

 「うんっ。俺、毎日 水やるし!」

頑張って世話するぞと、胸を張った坊や曰く、

 「そしたら大っきなゴーヤがなるぞvv」
 「え? 朝顔じゃなかったの?」

そういや蒔いたって話だけ聞いたんだっけね、私、と。
それへはさすがに、お眸々を丸くしたマキノさんだったようで。
どっちにしても楽しみですねと、
小さなアゲハがふよふよ、
お庭の一角、ユズの樹を目指して飛んでた朝でした。




      〜Fine〜  14.05.28.


  *何かのおまけでもらったゴーヤが、やっと芽を出しましたので。
   でも、今 芽が出たんでは、
   グリーンカーテンには間に合わないかも?

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